【騒音おばさん】当時の事件を振り返りながら考える『ミセス・ノイズィ』

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作品概要

ささいなすれ違いから生まれた隣人同士の対立が、マスコミやネット社会を巻き込んで、やがて2つの家族の運命を狂わせてしまう。
まさに今、誰の身にも起こり得る「SNS炎上」や「メディアリンチ」など、
社会事情も絡みつつ、後半思わぬ方向に事態が進んでいくサスぺンスフルな展開は、最後まで目が離せません。
構想は3年。あらゆる「争い」についての普遍的真理をテーマにした、天野千尋監督によるオリジナル脚本

主人公の小説家・吉岡真紀を演じるのは『共喰い』『湯を沸かすほどの熱い愛』『楽園 』などの篠原ゆき子
本作の好演で第59回アジア太平洋映画祭主演女優賞を受賞しました。
また、存在感のある芝居が評判の謎の隣人夫婦役をオーデション選出の大高洋子と宮崎太一、
ほか長尾卓磨米本来輝和田雅成そして、田中要次洞口依子風祭ゆきと、名優が脇を固めます。
また、真紀の娘は「パプリカ」を歌う人気ユニット「Foorin」のメンバー“ちせ”こと、新津ちせが演じているのも話題です。

ミセス・ノイズィ公式より引用
また、映画公開日である12月4日より、天野千尋 著の小説版も販売が開始。

STORY


小説家であり、母親でもある主人公・吉岡真紀(36)。
スランプ中の彼女の前に、ある日突如立ちはだかったのは、
隣の住人・若田美和子(52)による、けたたましい騒音、そして嫌がらせの数々だった。
それは日に日に激しくなり、真紀のストレスは溜まる一方。
執筆は一向に進まず、おかげで家族ともギクシャクし、心の平穏を奪われていく。
そんな日々が続く中、真紀は、美和子を小説のネタに書くことで反撃に出る。
だがそれが予想外の事態を巻き起こしてしまう。
2人のケンカは日増しに激しくなり、家族や世間を巻き込んでいき、
やがてマスコミを騒がす大事件へと発展……。
果たして、この不条理なバトルに決着はつくのかーー?!

奈良騒音障害事件

まず、本作を語る上で欠かせないのが【奈良騒音障害事件】の存在だ。
奈良県生駒郡平群町の主婦が約2年半にわたり大音量の音楽を流すなどの方法で騒音を出し続け、近所に住む夫婦を不眠・目眩などで通院させた事件。


『ミセス・ノイズィ』の脚本を手がけた天野千尋監督は、騒音おばさんが本作のモチーフのだと映画祭でも語っており、本作のストーリーには、奈良騒音障害事件に通じる部分が数多く登場する。
あくまでもモチーフなので、当時のことを描く作品ではないことを頭に置いた上で鑑賞してほしい


騒音おばさんの真相

騒音おばさんとは、もはや説明不要の人物であるが、奈良騒音傷害事件で騒音をだしつづけた主婦本人のことで、メディアやネットでは、その様子がおもしろおかしく取り上げられていたことが記憶に残っている人も多いのではないだろうか。
しかしテレビなどのメディアで大々的に報じられたのは上記の部分のみで、この事件には続きが存在する。
というのも、加害者であると報じられていた騒音おばさんこそが、実は被害者ではないのかというが存在することだ。


加害者側である騒音おばさんの裁判などでの供述やテレビやネットで転がっている情報の一部だが

被害者夫婦による自作自演で濡れ衣を着せられ、『塀のらくがき』で民事を起こされ敗訴

夫側の家系が原因で、おばさんを除く家族全員が難病を発症し、介護に追われていた

被害者夫婦以外には笑顔で挨拶したり、事件での騒音を申し訳ないと対応したりしていた

子供の泣き声がうるさいと近所から苦情を言われたため生活音を消すという名目で騒音を出すようになった


などなど、この他にも憶測や噂レベルではあるものの、さまざまな情報が流れている。
騒音おばさん本人が、裁判で実際に供述したものもあるが真相は当人達にしかわからない。


改めて考える事件の二面性と第三者の視点

© 「ミセス・ノイズィ」製作委員会

さて、映画『ミセス・ノイズィ』に関してだが、現代であるからこそ『SNS炎上』を絡めた演出や、メディア(テレビだけに止まらず)によるリンチなどの描写がリアルに突き刺さってくる。
当時、騒音おばさんをアイコンに、ネットではフラッシュ動画、メディアではバラエティ番組と…人権などあったものではないほどに騒音おばさんはフリー素材と化していた。
そして時が経ち、先ほど私が書いたようにネットを中心に騒音おばさんの真相を追求する動きが強まった。

私が『ミセス・ノイズィ』を良作だと思う理由の一つに、普遍的な争いにおける二面性を描く作品にとどまらなかったとこがある。
騒音おばさんに噂される真相が全て真実とも限らないし、被害者夫婦が悪だとも限らない。
逆に、騒音おばさんが完全悪だとも限らない。
だからこそ、どちらかを必要以上に擁護することもせず、ましてメディアやSNSで両者を煽るようなことはあってはならない。

本作は、騒音おばさんは実は被害者ではないという断定的なテーマを元に作成された映画ではない。
真相がわからないからこそ、我々第三者や当時者は、あらゆる可能性を想定して、他人と関わることが重要になってくる。
街を歩いていて出会う『変な人だな…』と思う人、ニュースで取り上げられる事件に出てくる人達、自分と喧嘩をしている人、どんな人であっても相手の立場や状況を想像することで争いは確実に減るのだ。
しかし、この相手の立場や状況を想像することこそが1番の難しい部分でもある。だからこそ多種多様を知り、あらゆる可能性を想定できる人間になる必要がある。そうすれば自分の他人への攻撃的な行動を一歩踏みとどまれるかもしれない。


『ミセス・ノイズィ』という作品は奈良騒音事件をなぞるだけではなく、どうすれば事件を回避できたのかのヒントが詰まっている作品でもあると云える。作品の持つポテンシャルや、監督が作品や事件にかける想いは、昨年公開の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に通ずる部分があると感じた。

『ミセス・ノイズィ』は全国25館で公開中!

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この記事を書いた人

関西を中心に映画観てます。
映画ブログのような存在を目指して細々と運営しようかなと思ってましたが、語彙力のなさと映画観る時間を優先したくて更新のめんどくささに挫折。
気分が向いた時に猿でもわかる内容をモットーに投稿してます

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